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| T-2 IT社会のリーガル・インフラ(消費者契契約法) |
第107回 消費者契約法(その1)
第108回 消費者契約法(その2)
第109回 消費者契約法(その3)
第110回 消費者契約法(その4)
第111回 消費者契約法(その5)
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IT社会のリーガル・インフラ
第107回 IT社会のリーガル・インフラ(その8)
要約 消費者契約法が2001年4月1日から施行されます。この法律はオンライン取引に的を絞ったものではありません。しかし、この法律はオンライン取引にも当然適用されます。消費者契約法はIT社会における消費者保護のリーガル・インフラであるだけでなく、IT社会の契約関係に及ぼす影響は少なくありません。
310 消費者契約法の施行と適用
消費者契約法は平成12年5月12日に公布され、2001年4月1日から施行されます。この法律は全12条と附則で構成されています。この法律は、法律施行後に締結された消費者契約について適用され、2001年3月31日以前に成立した消費者契約については適用がありません。しかしながら、新たに法律が制定された場合、新法の趣旨がその法律の適用前の事例においても斟酌され、解釈に影響を及ぼすという事例は少なくありません。したがって、消費者契約法の適用されない2001年3月31日以前に成立した契約についても、本法を正しく理解しておくことは必要です。
311 目的(1条)
「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」(1条)
この条文には、この法律の目的だけでなく、この法律の内容がすべて盛り込まれています。分説すると以下のとおりとなります。
この法律は、
(1) 消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、
(2) 事業者の一定の行為により消費者が誤認し又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとする、
(3) 事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、
(4) 消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
上記(1)は、この法律を制定するに至った社会的背景(「立法事情」と呼ぶことがあります)を説明しています。
(2)は、「消費者」が契約の申込、承諾を取り消すことができるという法的効果を創出することを述べています。
(3)は、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするという法的効果を述べています。
(4)は、これらの施策によって、個々の消費者の利益の擁護を図り、国民全体の生活の向上と経済の健全な発展に寄与すると述べています。
312 定義(2条)
第2条はこの法律における用語を定義しています。
1 「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2 「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
この定義から明らかなように、法人と法人の取引は「消費者契約」にはあたりません。したがって、法人・法人の取引は本法の適用はありません。
個人が当事者になる場合には、「消費者」となる場合と「事業者」になる場合があります。個人であっても「事業として又は事業のために」契約する場合には、もはや「消費者」として保護を受けられないだけでなく、事業者としての責任を負う場合があることに注意が必要です。
「事業」とは「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であるとされており、営利・非営利を問わず反復継続して行われる同種の行為が含まれます。「この法律の規定は、労働契約については、適用しない。(12条)」と、労働契約への適用は明示的に否定しています。労働契約は、労働基準法等の労働法によって規律されます。
第108回 IT社会のリーガル・インフラ(その9)
要約 消費者契約法が2001年4月1日から施行されました。この法律はオンライン取引に的を絞ったものではありませんが、オンライン取引にも当然適用されます。この法律は消費者契約における消費者保護の基本法であるだけでなく、IT社会の契約関係に及ぼす影響は大きく、IT社会のリーガル・インフラに含めなければなりません。
313 事業者と消費者の努力義務(3条)
事業者は、消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならないとされ、消費者は、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとすると、努力義務が定められています(3条)。
消費者契約法を主管庁であった経済企画庁は、平成12年5月付の「消費者契約法の解説」においては、事業者・消費者の努力義務について「いずれも努力規定であることには変わりはなく、私法的効果は一切発生しない。」と記述しました。この記述は誤りといわざるをえません。
法律になんの規定がない場合であっても、当事者に作為義務を認定した司法判断は多数あります。電気通信事業者に対して「条理」を根拠に名誉毀損記事削除を認めた判例も記憶に新しいところです。法律になんらの義務を定めていない場合であっても、私法上の義務が肯定されることもあるくらいです。したがって、法律に「努めるものとする」との努力義務が規定されておれば、作為義務を裏付ける有力な法的根拠となりうるものです。この作為義務は私法上の法的効果を発生させます。このように、法律において努力義務を明記するということは、私法上の法的効果を生じさせるものであって、「私法的効果は一切発生しない。」とは、法解釈についての誤解といわざるを得ません。
本条項は、消費者側にも「消費者は、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする」と努力義務が明記されています。消費者がこの努力を怠った場合にも、やはり損害賠償の範囲や過失相殺等の判断において、法的影響を及ぼすものと考えます。
314 経済企画庁編「逐条解説消費者契約法」の誤解
平成12年5月付「消費者契約法の解説」での「私法的効果は一切発生しない。」との記述は、その後に出版された平成12年12月付の経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編「逐条解説消費者契約法」では削除されております。このことは、経済企画庁自ら「私法的効果は一切発生しない」ことを訂正したものと解することもできましょう。
前出の経企庁編「逐条消費者契約法」では、「本条は努力義務であるので、本条に規定する義務違反を理由として契約の取消しや損害賠償責任といった私法的効力は発生しない」と記述しています。努力義務違反を根拠に「契約取消権」が生じないことは明らかです。しかし、損害賠償責任や過失相殺の判断に関して私法的効果が生じないとすることには疑問があります。損害賠償責任や過失相殺の判断に私法上の法的効果に影響を及ぼさないとする意味を含むものであれば、経企庁はなおも誤解しているものといわざるを得ません。
経企庁編「逐条消費者契約法」では、「努力義務」規定について、いくつかの法令が参照されております。そこでは、「先物取引の受託に関する法律」、「割賦販売法」、「訪問販売法」、「証券取引法」、「宅地建物取引業法」、「食料・農業・農村基本法」、「消費者保護基本法」が掲げられています。
どのような意図で、インターネットにおける警察規制の重要な根拠法として機能している改正風営法(風俗営業等の規制及び業務の適性化等に関する法律)の「努力義務」について、経企庁がリファーしなかったかは定かではありません。改正風営法の条文をご紹介致します。風営法の31条の8第3項以下は、次のとおりです。
「(街頭における広告及び宣伝の規制等)
第31条の8
3 映像送信型性風俗特殊営業(電気通信設備を用いた客の依頼を受けて、客の本人確認をしないで第二条第八項に規定する映像を伝達するものに限る。)を営む者は、十八歳未満の者が通常利用できない方法による客の依頼のみを受けることとしている場合を除き、電気通信事業者に対し、当該映像の料金の徴収を委託してはならない。
4 映像送信型性風俗特殊営業(前項に規定するものを除く。)を営む者は、客が十八歳以上である旨の証明又は十八歳未満の者が通常利用できない方法により料金を支払う旨の同意を客から受けた後でなければ、その客に第二条第八項に規定する映像を伝達してはならない。
5 その自動公衆送信装置の全部又は一部を映像伝達用設備として映像送信型性風俗特殊営業を営む者に提供している当該自動公衆送信装置の設置者(次条において「自動公衆送信装置設置者」という。)は、その自動公衆送信装置の記録媒体に映像送信型性風俗特殊営業を営む者がわいせつな映像を記録したことを知つたときは、当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」
第5項では、「自動公衆送信装置の設置者」は、「その自動公衆送信装置の記録媒体に映像送信型性風俗特殊営業を営む者がわいせつな映像を記録したことを知つたときは、当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と、明確に「努力義務」を規定しております。この努力義務は、「当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずる」ための作為義務の根拠として解釈される可能性が高いものです。経企庁には、「努力義務」の立法例としては、ぜひともこの条項についてリファーしていただきたかったところです。
次回は、消費者契約法の核心である「消費者契約の申込又はその承諾の意思表示の取消」、「事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効」についてご説明する予定です。
以上
第109回 IT社会のリーガル・インフラ(その10)
要約 消費者契約法が2001年4月1日から施行されました。この法律はオンライン取引に的を絞ったものではありませんが、オンライン取引にも当然適用されます。この法律は消費者契約における消費者保護の基本法であるだけでなく、IT社会の契約関係に及ぼす影響は大きく、IT社会のリーガル・インフラに含めなければなりません。
315 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
この法律の目的に明記されているとおり、この法律は、
(1) 消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、
(2) 事業者の一定の行為により消費者が誤認し又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとする、ものです。
消費者と事業者との間に格差が存在する状況にあっては、契約の締結の勧誘の際に、情報の提供が適切になされないまま、契約が締結される場合が考えられます。事業者の不適切な勧誘行為に影響されて、契約を締結した場合には、民法の詐欺(96条)にあたらない場合であっても、消費者保護の観点から、消費者は契約の効力否定することができます。
事業者による不実告知(1項1号)、断定的判断の提供(1項2号)、不利益事実の不告知(第2項)によって誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができます。
316 不実告知(4条1項1号)
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。
当該告げられた内容が事実であるとの誤認」(4条1項1号)
「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」とは、消費者契約締結を勧めることと解され、その態様についてはなんらの限定もなされていませんので、特定の消費者に対して勧誘する場合はもちろん、不特定多数の消費者に対して不実の事実を告げる場合も含まれるものと考えられます。
「際し」は、広い意味を持つ用語です。時間的近接性がある場合だけでなく、「そのような機会に」といった、緩やかな関連性があれば足りるものと考えられます。
事業者が「重要事項について事実と異なることを告げた」結果、消費者は「告げられた内容が事実であるとの誤認」をするという因果関係が本条項の要件です。
以上の要件を満たす場合には、消費者は、申込や承諾を取り消すことができます。取り消すと、その意思表示がはじめからなかったことになります(民法121条)。具体的には、まだ履行されていない債権債務は、これから行う必要がなくなります。すなわち、契約を申し込んだが、それが消費契約法の不実告知に該当する場合には、申込を取り消すことによって、契約の代価を払う義務を負わなくなります。
契約を承諾して、契約代金を支払ってしまった後は、契約を取り消すことによって、代金の支払と契約の履行が法的な原因無く相手方に残るという状態になりますので、それぞれ現状にもどすことになります。法律上は不当利得返還請求権を互いに行使して、契約関係の精算後始末をおこなうことになります。
317 断定的判断の提供(4条1項2号)
「二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。
当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認」(第4条1項2号)
将来において価額や金額等が不確実であるにもかかわらず、断定的判断を提供する場合がこれにあたります。
「将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」には、例えば絵画の取引に関してその絵画の価額や、不動産取引の不動産の価額などがあげられます。
「断定的判断」とはなかなか難しい表現ですが、「必ず」「絶対に」などの断定的な語句を使用することは必要ではありません。「絵画の価額が3年経てば2倍になる」という場合は断定的判断となります。しかしながら、専門家の○○氏が「この絵の作者は昨年亡くなったので、数年のうちに数倍に値上がりする」という情報を伝えることは、断定的判断にはあたりません。
事業者が、不確実な事項について断定的判断を提供した結果、消費者が提供された断定的判断の内容が確実であると誤認したとの因果関係があることが必要です。
以上の要件を満たす場合には、消費者は、申込や承諾を取り消すことができます。取り消すと、その意思表示がはじめからなかったことになります(民法121条)。その場合の効果については、前項をご参考下さい。
318 不利益事実の不告知(4条2項)
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」(4条2項)
事業者が、重要事項やそれに関連する事項について、不利益な事実を告げなかった結果、消費者がその事実が存在しないと誤認した場合には、契約の申込・承諾を取り消すことができます。
この「重要事項」については、本法において次のとおり定義されています。
「「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」(4条4項)
本条項にはただし書きがあり、以下の場合には事業者が免責されます。
「ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。」
第110回 IT社会のリーガル・インフラ(その11)
要約 消費者契約法が2001年4月1日から施行されました。この法律はオンライン取引に的を絞ったものではありませんが、オンライン取引にも当然適用されます。消費者契約法の目的は、消費者契約の申込み承諾の取消と消費者契約の条項の無効です。今回は、消費者契約の条項の無効についてご説明致します。
319 消費者契約の条項の無効
本稿311項で述べたとおり、消費者契約法の目的は、消費者契約の申込み承諾の取消と、消費者契約の条項の無効という法的効果を規定することです。
消費者契約の条項の無効には、事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の無効、消費者の利益を一方的に害する条項の無効の3つの類型があります。順に、ご説明致します。
320 事業者の損害賠償責任免除条項の無効(8条)
以下の消費者契約の条項は無効とされます。
「一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項
五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れたかし瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項」
すなわち、以下の条項は無効となります。
(1) 債務不履行責任の全部免責
(2) 故意・重過失による債務不履行責任の一部免責
(3) 不法行為責任の全部免責
(4) 故意・重過失による不法行為責任の一部免責
(5) 瑕疵担保責任の損害賠償義務の全部免責
(1) 民法415条の規定する債務不履行責任が生じた場合、それによって損害を被った者は同条項に基づいて損害賠償請求権を取得することになります。消費者契約において、事業者が負担するこの責任を全部免責する条項は、本法によって無効となります。したがって、一般原則にもどって、事業者に債務不履行の事実があり、その債務不履行について責任があり、債務不履行と因果関係のある損害が発生している場合には、民法415条に基づき、事業者は消費者に対して損害賠償責任を負うことになります。
インターネット接続プロバイダーが、消費者である契約者に対して、「サービスの提供ができないことから生じる損害賠償責任は一切負いません」との契約条項を入れても、そのプロバイダーに帰責事由(責任)があって、民法の一般原則では責任を負う場合には、「損害賠償責任は一切負いません」との全部免責条項は無効となります。したがって、そのプロバイダーは一般原則どおり、損害賠償責任を負うことになります。
(2) 民法415条の規定する債務不履行責任が生じた場合、それによって損害を被った者は同条項に基づいて損害賠償請求権を取得することになります。消費者契約において、事業者又はその使用する者に故意又は重過失があっても損害賠償責任を制限する旨の条項は、本法によって無効となります。事業者等に故意又は重大な過失がある場合には、その責任が重いものであり、そのような場合には、民法の原則どおりの責任を負わせることとしました。
インターネット接続プロバイダーが、消費者である契約者に対して、「サービスの提供ができないことから生じる損害賠償責任は一切負いません」との全部免責条項は前号によって無効となります。そのような事態を回避するため、「サービスの提供ができないことから生じる損害賠償責任は、1月の接続料金を上限とします」などの責任制限条項を規定した場合、この責任制限条項は「損害を賠償する責任の一部を免除する条項」となります。プロバイダーの従業員の故意あるいは重大な過失によって、サービスの提供ができなかった場合には、この責任制限条項は無効となります。したがって、そのプロバイダーは一般原則どおり、損害賠償責任を負うことになります。
(3) 本号は民法44条(法人代表者の不法行為)、709条+715条(使用者責任)、717条(土地工作物責任)、718条(動物占有者責任)に基づく、損害賠償責任に関する規定です。不法行為とは、契約関係のない当事者間において損害賠償責任が生じることを言います。交通事故は、契約関係のない場合に生じることが圧倒的に多いですので、多くが不法行為の問題となります。
「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為」とは、非常に幅の広い概念です。インターネット接続プロバイダーが管理するメールサーバーが故障し、電子メールのデータが消失したという場合には、電子メールを消失させるということは債務の履行ではありませんので、「債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為」となり、不法行為責任が問題となります。
このような事態において、そのプロバイダーが一切責任を負わないとの全部免責の条項は本号によって無効となります。プロバイダーは上記の民法の各法条に基づき、一般原則どおり損害賠償責任を負うことになります。
(4) 本号は、上記(3)と同じ、不法行為責任の場面の問題です。この場合に、「サービスの提供ができないことから生じる損害賠償責任は、1月の接続料金を上限とします」などの責任制限条項は、プロバイダーの従業員の故意あるいは重大な過失による場合には、無効となります。そのプロバイダーは一般原則どおり、民法の不法行為に関する各法条に基づき、損害賠償責任を負うことになります。
(5) 本号は民法第570条(売買の瑕疵担保責任)、第634条(請負の瑕疵担保責任)に関する規定です。
「消費者契約の目的物」とは売買契約の対象とされた物、「仕事の目的物」とは請負契約によって目的とされた物を意味します。
これらの目的物に目的物に消費者が通常の注意をもってしても知り得ない、通常有すべき性質の欠如があると「瑕疵がある」ことになります。この瑕疵から消費者に生じる損害賠償義務を全部免除する条項は、無効となります。
「本ソフトウェアの使用から生じる一切の責任は負いません」との規定は、全部免除となります。したがって、本号によってそのような条項は無効となり、事業者は一般原則どおり民法に基づく損害賠償責任を負担することになります。
パッケージ・ソフトウェアの販売は、ソフトウェアの利用許諾契約であって、売買ではありません。しかしながら、本号の射程範囲は「売買」に限定せず、「有償契約」一般に拡大しております。したがって、厳密に言えば、「売買」ではない契約であっても、有償契約であれば、本号の適用があります。
無償で提供する試用版は、「有償契約」ではありませんので、責任の全部免除条項は本号の適用はありません。
また、本号は全部免除の無効だけを規定しております。したがって、瑕疵担保責任の責任制限条項は、本法によっては無効とされることはありません。したがって、「本ソフトウェアの使用から生じる責任は500円を上限とします」という条項は、責任の一部制限と考えられますので、本号適用を回避できます。もっとも、ソフトウェアの価額(例えば3万円)に比して、極めて低廉な価額(例えば100円)を責任制限の上限とするような場合には、一部免除ではなく全部免除と解され、本号が類推適用される余地がないとはいえません。
消費者契約において、
(1) 事業者の責任の全部免除条項は無効
(2) 事業者に故意・重過失がある場合は責任制限条項は無効
(3) 瑕疵担保責任の全部免除条項は無効
以上3点は、IT社会のリーガル・インフラであるということを、肝に銘じなければなりません。
第111回 IT社会のリーガル・インフラ(その12)
要約 消費者契約法が2001年4月1日から施行されました。この法律はオンライン取引に的を絞ったものではありませんが、オンライン取引にも当然適用されます。消費者契約法の目的は、消費者契約の申込み承諾の取消と消費者契約の条項の無効です。今回は、消費者契約の条項の無効についてご説明致します。
321 事業者の損害賠償責任免除条項の無効の不適用(8条2項1号)
前項において、消費者契約では以下の3点に注意すべきとご説明致しました。
(1) 事業者の責任の全部免除条項は無効
(2) 事業者に故意・重過失がある場合は責任制限条項は無効
(3) 瑕疵担保責任の全部免除条項は無効
消費者契約法は、上記の原則のうち(3)(瑕疵担保責任の全部免除の無効)について、2つの例外を規定しています。
「2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合」
隠れた瑕疵がある場合に、瑕疵のない物に換える場合(代物提供)と、その瑕疵を修補する場合(瑕疵修補)の場合です。瑕疵のない物に換えてもらえれば、消費者としては救済の途が残っています。また、その目的物の瑕疵を修補する責任が規定されている場合には、これまた消費者としては救済の途が残っています。したがって、このような場合には、瑕疵担保責任の全部免除条項は無効は適用しないこととしました。
この条項をご説明すると、必ず質問を受けます。
「代物提供や瑕疵修補はそもそも瑕疵担保責任の内容ではなかったのか、この法律の8条2項の規定はおかしいのではないか」と。これに対する回答は、いささか専門的でパズルのような議論になります。法律専門家の間でも議論が分かれているところですので、さらっと聞き流す程度で構いません。
まず、代物提供についてご説明致します。
一般的には、瑕疵担保責任は、売買などの目的物となった当該商品に対してだけ発生する責任と考えられています。したがって、当該商品についてだけの責任ですので、代替品を提供することは、瑕疵担保責任の問題ではないと考えられているのです。すなわち、法理論上は、瑕疵のない代替品を提供するということは、瑕疵担保責任の内容ではないのです。瑕疵のない代替品を提供することは担保責任の内容ではないですから、担保責任を全部免除することと、瑕疵のない代替品を提供することは両立する関係にあります。したがって、担保責任全部免除の無効を適用しないということと、瑕疵のない代替品を提供することは、理論的には整合しているのです。
瑕疵修補については、さらに複雑になります。
民法の瑕疵担保責任は、民法第570条(売買の瑕疵担保責任)と第634条(請負の瑕疵担保責任)に大別できます。請負契約以外の有償契約については売買の瑕疵担保責任が準用されます(民法559条)。請負の瑕疵担保責任の内容には、瑕疵修補責任が規定されています。しかし、売買の担保責任の内容には、瑕疵修補責任がありません。したがって、請負以外の契約、例えば売買契約においては、瑕疵修補責任は瑕疵担保責任の内容とはされていないのです。したがって、請負契約以外の有償契約では、瑕疵の修補は担保責任の内容ではないですから、担保責任を全部免除することと、瑕疵修補を行うことは両立する関係にあります。したがって、担保責任全部免除の無効を適用しないということと、瑕疵修補を行うことは、理論的には整合しているのです。
結論としては、「代替品を提供する、瑕疵を修補するという責任を負う場合には、瑕疵担保責任を全部免除する条項は無効とはならない」ということです。
322 消費者が支払う損害賠償額を予定する条項の無効(9条1号)
「次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分」
消費者契約を解除に伴う損害賠償額あるいは違約金を定める場合、損害賠償の予定額と違約金の合算額について制限を規定しています。これらの合算額は、同種の消費者契約の解除によってその事業者に生じる平均的な損害額を超える場合には、それを超える部分を無効とするものです。
本号は、解除を行う主体を限定していません。したがって、消費者から契約を解除する場合だけでなく、消費者の責めがあって事業者が法律に基づく解除、あるいは、契約に基づく解除を行う場合にも適用されます。
「平均的な損害」とは、同一事業者が締結する同種の契約について、算定することができる平均的な損害の額を意味します。したがって、一般的に算定可能と考えられます。
本条項によって、事業者は消費者に対して、消費者契約の解除を理由として、同種の消費者契約の解除によってその事業者に生じる平均的な損害額を超える請求を行うことはできないことになります。
323 消費者が支払う損害賠償額を予定する条項の無効(9条2号)
「二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの当該超える部分」
本条項によって、事業者は消費者契約においては、消費者が契約に基づく金銭の支払が遅延した場合の損害賠償額の予定等を定めたときは、年14.6%を超える損害賠償を消費者に請求することができないことになります。年14.6%とは、実質的に「日歩4銭」を意味します。事業者は遅延損害金として年14.6%を定めても、消費者契約法には違反せず有効であることを意味します。実務的にも、14.6%あるいは14.5%の遅延損害金の利率を定める例が多く、このような実務を追認するものといえるでしょう。
324 消費者の利益を一方的に害する条項の無効(10条)
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」
消費者契約法では8条、9条において、消費者の利益保護の観点から無効となる条項を具体的に規定しています。しかしながら、消費者の利益を不当に害する条項はこれに網羅されるわけではありません。
そこで、8、9条以外の条項についても、民法、商法その他の法律の任意規定の適用による場合に比べ、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する特約であって、その程度が民法1条2項の基本原則に反するものの効力を否定することとしました。
ちなみに、民法1条2項の規定は次のとおりです。
「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」
この条項の「信義誠実」とは、「社会共同生活の一員として、互に相手方の信頼を裏切らないように、誠意を持って行動することである。」(我妻『民法総則』)とされています。権利の行使及び義務の履行に当たっては、相手方の信頼を裏切らないように誠意を持って行動することが要請されるということです。この信義誠実の原則(信義則)は、「権利の行使及び義務の履行」民法だけではなく商法も含めた、民事法一般の指導原理となっています。
信義則を適用した裁判例は多数あります。契約条項自体を無効にするわけではなく、当該事例において、その条項に基づく権利主張が信義に反し許されないと、具体的な権利主張を制限するものです。本条項では、このような信義則適用の裁判実務における取扱をさらに一歩進めて、契約条項自体を無効とするものとしました。
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